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2012ボルチモア大会タイトル
大会テーマ「夢・希望・未来へ」<わくわくするクリーニング業界を目指して>
2015年9月13日(日)〜15日(火)
会議会場:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)
晩餐会会場:リーガロイヤルホテル大阪
参加人数:567名 国内:171名 海外:96名

IDC大阪大会2015

今大会のテーマ「夢と希望を持ち未来へ向かって、ワクワクするクリーニング業界を創造する」を十分に表現できたIDC大阪大会であったように思う。これまでのIDCは業界の問題点や課題を提起する内容が多かっただけに、今大会は新しい可能性と発想法を十分に示してくれた。

 「歴史は繰り返す」ではないが、今後の成功要因を導き出すためには「過去に学ぶ」ということも必要で、第1講座の西川芳雄氏の講演は、「なぜ日本のクリーニング業は成功したのか?」というテーマで、集中工場システムの成功・取次店システムの発達・料金の前金制・Yシャツクリーニングの習慣化による顧客のリピート化など日本の業界特有の当時の成功要因を振り返った。1992年以降は業界の変革期と定義し、製造業や小売業といった先輩業界の過去の変遷が繰り返されるはずという仮説のもとに、変革期は「多品種少量販売」いわゆる「一商品一サービス」の「個別化」を顧客が志向するようになってきた。「個別化」とはクリーニング業がサービス業であるということを再認識すべきであり、目の前の一人一人のお客様に「ビジョン」と「信念」をもって当たるべきであるとの考えを提唱することで今後の可能性の糸口を示した。

西川芳雄氏

西川芳雄氏

 「クリーニング業が新しいサービス業である」ということを具体的に実現・実践されているのが第2講座の沼崎周平氏の講演の骨子である。その実現のために、「日本一楽しいクリーニング店を目指して!」というビジョンを掲げ、その必要条件として「心の豊かさ」をもった人材を育成することが企業として大事な使命であり、「人としての成長」を企業理念としている。沼崎氏が「人は何のために働くのか?」と自問自答した結果、それは「幸福感の追求」であるという答えが導き出された。そのためには、感謝される人間になることを仕事の目的とし、「心の豊かさ」を持ったキャスト(ユーゴ―さん では社員さんをこう呼びます)達が自身の「人としての成長」を感じられる場としての会社づくりがユーゴ―さん の力の源である。また、キャスト達の「人としての成長」はお客様との良好な人間関係をもたらし、自ずと売上・単価の上昇を実現し、原価を維持することで粗利が増える。この粗利の大きさこそがブランド力であり、増えた粗利の使い道が会社の成長を大きく左右するとした今後の業界自体の成長モデルを具体的に提唱した。「右手にロマン、左手にソロバン、心にジョーダン!」を実践されている沼崎氏の想いを十分に感じる楽しく、明るい未来を感じる講演でした。

沼崎周平氏

沼崎周平氏

 第3講座は JEEVES LONDONのレイ・ランバート氏にジーブススピリットを語っていただいた。ジーブスのコンセプトは「紳士の世話をする紳士」ということで、おしゃれな顧客と共通の感性を持った対等なサービスを提供していきたいという、日本のクリーニング業界にはないブランド力とコーポレートアイデンティティ(CI)を最大の強みとしている。ドライクリーニングは目に見えないものを提供するサービスであり、物質的ではないサービスの質が最も重要であるとしている。最上のクリーニングによって、お客様の心を変えるようなサービスを目指している。また、「ジーブスはファッションを補完するもの!」と言い切るあたりは、クリーニング業の枠を超えてファッションメンテナンス業としてのジーブスのアイデンティティを顕著に物語っていると言える。日本の業界は素晴らしい技術力を持っているかもしれないが、ジーブスをはじめとした海外の優良業者は自らの立ち位置を明確にし、「何をもって顧客に貢献するのか?」が極めて明確である。また、そのことを伝える表現力。「ジーブス=ロンドンで最もオシャレなクリーニング店!」というブランドの下に小見出しをつける手法などは、その冴えたる例であると言える。このあたりは、われわれ日本の業界が感覚的に学ぶべきポイントであると思う。ただ、ジーブスは表現力だけでなく工場の品質に対する飽くなきこだわりを持っていることも忘れてはいけない。

レイ・ランバート氏

レイ・ランバート氏

 第4講座は、アメリカのCD One Price Cleaners の経営幹部3人(最高経営責任者:ラフィーク カリミ氏 副社長・マーケティング担当:ジョン モロッコ氏 副社長・店舗運営担当:スティーブ スコーネキー氏)による各専門分野別の講演であった。こちらの会社は、「タイムリー(即日仕上げ)」「フレンドリー(接客技術の向上)」「値頃感(一律の価格)」という3つの強みを徹底的に磨き上げることで、競合他社との差別化を図ることで成功を収めてきた。ここまでなら日本にもありそうなビジネスモデルであるが、ここから先がこの会社は違うようだ。マーケティングを「顧客の体験」を良くする活動と位置付け、サービスを供給する側だけでない視点、いわゆる「顧客の体験」の視点からサービスを徹底的に考えているようだ。圧巻なのは、「顧客の声を聞くこと」の徹底度とその具体的な手法であり、その手法はNPS(ネットプロモータースコア=Net Promoter Score)という顧客のロイヤルティ(=サービスに対する忠誠度)を測るための指標のひとつである。これだけ聞くと難しそうに感じるが、実は内容は簡単で、「あなたはこのサービスを友人に勧めますか?」という質問の結果をある一つの計算式に当てはめ、顧客のロイヤリティの度合を数値化するというものである。この指標は簡単なことが良く、今後のクリーニング業界の顧客満足度を正確に測る、効果的な手法であると感じた。ここまで顧客のフィードバックを大事にしている会社は無いだろうし、我々が大いに学ぶべき点である。

ラフィーク カリミ氏 ジョン モロッコ氏 スティーブ スコーネキー氏

ラフィーク カリミ氏

ジョン モロッコ氏

スティーブ スコーネキー氏

 番外編にはなりますが、私にとって印象的だったのは、三幸社さん主催のさよならパーティでの出来事。三幸社会長の打越氏があいさつに立たれ、「学ぶことも大事だが、時流を感じ、そこに乗ることはもっと大事だ!」というお話をされました。振返ってみると、今はお亡くなりになられたJCPC元理事長の西川芳平氏が全く同じことを言っておられたことを思い出しました。私自身、経営を学ぶということ関して、JCPCのフェローシップという制度のお世話になった機会に西川芳平氏からいただいた言葉である。いつの時代も、優れた経営者というのは感覚的に感じるものがあるのだなと再認識するとともに、「経営を学ぶ」「海外に学ぶ」というJCPCの2つの強みを、フェローシップ制度の復活などを通じて、JCPCとして表現・実現できていければと強く感じました。
 最後になりますが、今回の企画を自らの時間を犠牲にして創り上げてきたJCPC西日本委員会の各メンバーの皆様、打越常務理事、JTSの藤島氏には心から感謝申し上げます。プロだけでなく、素人が最初から最後まで手づくりで創りあげた素晴らしい大会であり、今後のIDCにとって模範的かつ歴史に残る大会であったと思います。

安久哲生


 
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